第1幕 王都陥落



オォォォォォォォーーーーー!!! 北の城門の方角からいっせいにトキの声が上がった。
それと同時に王宮の作戦司令室に傷だらけの一人の兵士が駆け込んできた。
           
「北門が・・・完全に破られました!城内に潜んでいた敵兵が門の守備隊を背後から襲撃し・・・・」 そう言うと兵士はバタリと倒れた。
「おい、しっかりしろ!」 親衛隊長メーティスが倒れた兵士を抱き起こした時、既に兵士は事切れていた。
「西門の手勢を割いて北門を奪回するのよ!」 司令長官を兼ねる女王アレシアの声はいつもの冷静さをやや欠いていた。
      

紀元前10世紀頃。エーゲ海を中心とした小アジアの沿岸一帯は大小いくつもの国家が形成されつつあった。
やがて西のギリシア諸都市と東のペルシア帝国が勢力を急速に拡大していくことになるのだが、その周辺諸国の一つに肥沃な大地
と強力な軍事力を誇るアマネニア王国があった。
アマネニアは女性だけで構成されたアマゾンの国の一つで、正義と秩序を尊ぶ若き女王アレシアの統治下で国民は平和な生活を
享受していた。
   

一方、アマネニアと山をひとつ隔てた隣国ザーニガン王国は、名君と讃えられた先王の死後、忠臣ギガリアーが王位を継いだが、
実はギガリアーは腹黒く残忍で欲望の塊のような人間であった。
ギガリアーは念願の王位に就くと徐々にその本性を現し、王位のみに飽き足らず領土や富への執着を剥き出しにしていった。
                      
国境を接するバルジスタン、メネラシアを征服し勢いづいたギガリアーが次に標的として定めたのが山の向うのアマネニア王国で
あった。
しかしギガリアーの思惑に反しアマネニア軍の防御は堅く、次々と送り込まれるザーニガンの軍勢はことごとく撃退され、両軍は
睨み合ったまま既に半年が経過しようとしていた。
だがここにきて、ギガリアーの卑劣で狡猾な作戦がついに奏功し、アマネニアの王城は今まさに陥落寸前まで追い込まれていた。
      

また一人兵士が王宮司令室に駆け込んできた。
「我が防衛線は総崩れで、もはや敵軍の城内侵入は防ぎきれません!」
いよいよと察した親衛隊長メーティスは部下に向かって叫んだ。「セルケト!ベローナ!シータ!命に代えても女王を守れ!」
名指しされた3人はメーティスとともに“アマゾン四天王”と呼ばれる勇猛な戦士たちで、いずれもアレシア女王の最も頼りとする
家臣たちであった。
「もちろんそのつもりです、隊長!」と若き隊員シータが、「女王に指一本触れさせるものか!」と褐色の戦士セルケトが答える。
                   
「ベローナ!ベローナはどこへ行った?!」 戦況把握と作戦指示に没頭するあまりベローナの不在にメーティスは今気がついた。
「どこにもいないわ!それに侍従長のペイトーネも!」 周囲を見渡しながらシータが叫ぶ。
「くそっ、女王の側近である2人がこの緊急時に姿をくらますとは・・・。彼女らが敵に内通したに違いない!」
セルケトが怒りを満面にたぎらせながら言った。
「構わないわ!忠誠心のない連中がいても役には立たない。女王は残った我々でお守りするのよ!」
その時、空気を震わせて突風のような音がものすごい勢いで近づいてきた。
「危ないっ!」 窓に背を向けて立つアレシア女王めがけメーティスが体当たりした。
ドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!!!!!
無数の矢が窓から司令室に打ち込まれてきた。
「うっ、くそっ」
「メーティス!!」 アレシアは自分をかばって代わりに矢を体に受けたメーティスに気づいて叫んだ。
  
「こ、これくらい、何でもありません!女王こそお怪我は!?」メーティスは気丈にも二の腕を貫いた矢を自ら引き抜きながら言った。
そこへ、ガシャガシャガシャ!!!と鎧と武器を鳴らして敵兵の一団が侵入してきた。
エイッ!! とっさに抜刀したアレシアは先頭の兵士を一刀両断に斬り倒した。
     
続いて2人、3人と侵入者を倒すアレシアに親衛隊のメンバーが加勢しようと剣を手にしたその時、敵兵が放った大きな網が親衛隊員
たちの上に覆いかぶさった。
「ああっ、しまった!」と身動きがとれずもがくメーティスたち3人に周囲から無数の鋭い槍が突きつけられる。
                  
「そこまでだ!アレシア女王。こいつらの命が惜しくば、剣を捨てるんだ!」
司令室入口に殺到していた敵兵の群をかきわけ前面に進み出た将校らしき大男が大声で言った。
  
「くそっ!卑怯な。いかにも私はアマネニア国女王アレシアだ。さあ、殺せ。そして私の首をギガリアーに持って行くがよい!」
アレシアは隠しもせず堂々と言い切り、手にした剣を放り投げた。
「女王!!」 メーティスたち親衛隊員は自分たちの油断を悔いながら悲痛な叫びを上げた。
「おまえらは殺さん。必ず生け捕りにせよというギガリアー様のご命令だ。」敵将はアレシアたちにそう言うと、部下に合図を送った。
兵士たちは傷ついた獲物に猟犬が飛びつくがごとく、アレシアと親衛隊員たちにいっせいに群がり、鎖で後ろ手に縛り上げると、抗う
彼女たちの口を無理やりこじ開け口枷を嵌め込んだ。
   
「よし、作戦は完了だ。俺はこいつらをザーニガンへ連行する。残った部隊はアマネニア城を徹底的に破壊しろ。そして幻の財宝を
探し出し持ち帰るんだ。捕虜の女どもはおまえらの好きにするがいい。わかったなっ!!」
オォォォォォォォーーーーー!!! 兵士たちは残忍な笑みを浮かべながら大きな歓声を上げた。

国を滅ぼされ、民を陵辱され、そして自分自身も敵の捕虜となるこの上ない屈辱に、アレシアは今にも気が狂いそうであった。
できることならこの場で自ら命を絶ちたい。しかし、アマネニアは必ず再建してみせる。そのためには、どんなに辛くとも死ぬわけに
はいかない。必ず生きのびてこの地に戻ってやる。そうアレシアは固く誓った。
ザーニガンへ帰還する軍勢の長い列。
護送車の荷台に晒された哀れな4人の女たちの姿は、つい先ほどまで栄えあるアマネニア王国の女王と家臣であったことが嘘で
あるかのように惨めなものであった。


頑丈な口枷で言葉を封じられたアレシアたちは、互いに目だけで合図を送り、これから自分たちを待つ過酷な運命に決して負けて
なるものかと誓い合った。
   




※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体、地域、国家は実在しないものであります。

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